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東京高等裁判所 昭和50年(う)1702号 判決 1975年12月22日

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役四月に処する。

本件公訴事実中、暴力行為等処罰に関する法律違反の点については、被告人を免訴する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人白井忠一作成名義の控訴趣意書に記載されているとおりであるから、これを引用する。

所論は、被告人を懲役一年に処した原判決の量刑が不当に重い、というのである。

そこで、まず、弁護人の控訴趣意について判断するに先だち、職権をもつて調査するに、記録によれば、被告人の本件各所為中暴力行為等処罰に関する法律違反の点は、常習として昭和四九年五月一七日都留市内路上において成沢隆継(当時二三年)に対し殴る蹴るなどの暴行を加え、両刃のこぎりで切りつけ、加療約二六日間を要する傷害を負わせた所為につき、暴力行為等処罰に関する法律第一条の三、刑法第二〇四条に該当する常習的傷害の罪として別件の道路交通法違反の罪と共に併合罪を構成するものとして起訴されたものであつて、原判決は、いずれもこれを有罪と認定し、被告人を懲役一年、両刃のこぎり一丁を没収する旨の刑を言い渡したものであることが明らかであるが、一方、被告人の前科調書及び当審において取調べた被告人に対する昭和四九年六月八日発付の略式命令謄本並びに被告人の当審及び原審の各公判廷の供述によれば、被告人は、また、右傷害の犯行の直前である昭和四九年二月二四日同市内において、杉本義介の顔面を殴打し、下腹部をひざで蹴るなどの暴行を加えた事実により、本件犯行後である昭和四九年六月八日都留簡易裁判所において単純暴行罪として略式命令により罰金四万円に処せられ、右裁判は、同月二九日確定したことも明らかである。そして、右暴行の犯行の態様と、原判決が本件常習的傷害の所為の罪となるべき事実の冒頭に掲記している被告人の各前科受刑の事実とを総合すれば、右暴行も暴力行為等処罰に関する法律第一条の三所定の常習的暴行に該当するものとみるべきであり、また、前記の本件常習的傷害の所為も右確定裁判前の犯行であるから、右暴行の犯行と共に包括して一個の常習的暴力行為の罪を構成すべきものであつたといわなければならない。してみると、右包括一罪の一部について既に確定裁判があつた以上、本件における前記常習的傷害の所為については確定判決を経たものとして免訴されるべきであり(最高裁第二小法廷・昭四三・三・二九判決・最刑集二二―三―一五三参照)、この点を看過し、本件常習的傷害の所為をも本件の有罪の事実に含めた原判決は、法令の解釈適用を誤つたものというべきであり、右の誤りは、判決に影響を及ぼすことが明らかである。

よつて、弁護人の控訴趣意を判断するまでもなく、刑事訴訟法第三九七条第二項、第三八〇条により原判決を破棄し、同法第四〇〇条但書により被告事件につき更に判決する。

原判決が適法に確定した原判示第二の事実に法令を適用すると、被告人の原判示第二の所為は、道路交通法第一一八条第一項第一号、第六四条に該当するところ、所定刑中懲役刑を選択し、その刑期の範囲内で被告人を懲役四月に処することとする。

なお、本件公訴事実のうち、暴力行為等処罰に関する法律違反に係る公訴事実は、被告人は、常習として昭和四九年五月一七日午前零時三〇分ころ都留市十日市場一、五五七番地先路上において、成沢隆継(当時二三年)に対し殴る蹴るの暴行を加え、両刃のこぎりで切りつけ、よつて同人に対し加療約二六日間を要する左手掌切創、左小指腱断裂の傷害を負わせたものである、というのであるが、被告人の当審及び原審公判廷における各供述、並びに被告人の前科調書、当審において取調べた都留簡易裁判所の略式命令書の謄本(四通)、甲府地方裁判所都留支部の判決書の謄本の各記載を総合すると、さきに説示したとおり前記杉本義介に対する暴行は、暴力行為等処罰に関する法律第一条の三、刑法第二〇八条に該当するものとみるべきであり、右所為について昭和四九年六月八日都留簡易裁判所で罰金四万円に処する旨の略式命令による裁判を受け、右裁判は同月二九日確定したことが明らかであるところ、本件常習的傷害の所為も右確定裁判前の犯行であるから、本来右暴行と共に包括して一個の常習的暴力行為の罪を構成すべきものであつたというべきであり、従つて、包括一罪の一部について既に確定裁判があつたことになるわけであるから、確定判決を経たものとして、刑事訴訟法第四〇四条、第三三七条第一号により被告人に対し右暴力行為等処罰に関する法律違反の点について免訴の言渡をすることとする。

よつて、主文のとおり判決する。

(瀬下貞吉 金子仙太郎 小林眞夫)

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